話の話 ノルシュテイン&ヤールブソワ展

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

ユーリ・ノルシュテイン作品集 [DVD]

アニメーションの巨匠、ユーリ・ノルシュテインフランチェスカ・ヤールブソワ夫妻の最大の展覧会@神奈川県立近代美術館<葉山館>に、行ってきた。


この展示最大の目玉は、夥しいスケッチだった、と個人的には思っている。(『話の話』『霧の中のハリネズミ』のエスキースも素晴らしかった!『霧の〜』なんて、マケットにへばりつくようにして眺めても“霧”の向こうは見通せなかったのだ!)
とくに現在もなお制作中の『外套』のためのスケッチは圧巻で、単純にその数だけでも全てを見て回ることに一瞬怯むほどの量がある。例えば、アカーキーが雪の道を歩むその一歩一歩が、もはや偏執的とさえいえるほどの詳細さでもって描かれている。アカーキーが3歩進めばスケッチも3枚、下手をすると4枚にもなる、というように。
脇役(というのはちょっと適当じゃないけれど)の表情ですら、決定稿(?)が出るまでは何枚も何枚も描かれているようだった。アカーキーの鼻には特別なこだわりがあるのか、とんがりすぎた下書きには大きく×がつけてあったりもした。


この膨大な作業をじっくり観ていく内に、これは人/モノ(命あるもの)の動作/かたちそのもの、その一瞬一瞬を確実に写し取っていく気の遠くなるような作業の記録なんだと気付かされた。かれらの写し取っているものは、命という性質そのものなんだということがひしひしと伝わってくる。
そういう意味で、歌舞伎のカタと発想の点で共通する部分があり、彼が日本に興味を示し題材にとった(竹齋と芭蕉)のは納得いくことだったのだとも。


ほんとうに充実した展示であったのだが、唯一心配なのは、このままの情熱(狂気)で『外套』をつくり続けるとなると、完成を見られるのはいつの日か・・・といったことだろうか。
はやくみたいけれど、石清水と同じで時間掛けねばけっして醸造されないものもある、と自分に言い聞かせ、逗子をあとにした。